スリランカ訪問記 その2

ハンバントタ紀行
〜インド洋のシーレーンを望み南部発展の未来を思う〜             藤井俊彦

3.中国の野望「真珠の首飾り作戦」をウオッチせよ!

第一期工事で建設埠頭た大型船舶用埠頭 大航海時代の15,16世紀以来、中国、東南アジアとインド、アラビアを繋ぐ海路は海のシルクロードと呼ばれてきた。現代、世界のコンテナ船の半分はインド洋を航海する。エネルギー資源と輸送ルート確保上、インド洋のシーレーンが死活的に重要であると早くから気付いていた中国は、スリランカの内戦末期に武器提供やODAによる援助などで取り入り、ハンバントタ港の大拡張や国際空港のビッグプロジェクトに関わり、他国が真似ることが出来ないほどの際立った支援で差をつけた。即ちインド洋におけるパワーバランスで優位に立とうと動いたのだ。

 スリランカ政府がハンバントタ港プロジェクトへの支援を打診した時、比類なく繁忙なシーレーンではあるが、貨物の積み替え、燃料補給、修理ドックなどの需要を考えると、採算性への疑問から欧米諸国や日本は積極的関心を示さなかった。商業的見地から当然である。そうした中で唯一中国が乗ったことで実現した。採算を度外視した国家戦略上の決断だった。インドも乗り気薄だった。中国が手出しすると分かっていれば警戒したであろうが、従来インドはスリランカに対して積極的な政策を取らなかった。一方、中国が内戦で疲弊していたスリランカにつけ込んだ形で食い込んだ。因みに日本は08年まではスリランカにとって最大のODAドナー国だったが、09年に中国が一挙に10億$を供与してトップドナー国になり、現在日本は、中国、米国に次いで第3位である。

 この結果、中国はインド洋に進出する足場を築けたし、スリランカは他国からは期待できないほど多額の援助に恵まれ、国内政治的にも安定が得られるというラブラブの関係にある。スリランカが平和を回復した頃から中国との蜜月ぶりが気になっていた私は、スリランカの旧友たちに問い掛けた。「スリランカは中国を相手にそんなに無造作に事を運んでよいのか?」と。答えは概ね「内戦の最終局面の攻防で生じた残虐行為を巡って、スリランカは欧米から人権侵害の非難をあびせられたが、中国はかばってくれた」「中国は気前がよい」「大規模な投資を行っても、EU、米、日のようにあれこれ煩わしい条件をつけないし、決断が早い」などとべた誉めだった。「困った時に助けてくれるのが、真の友だ」と言わんばかり。しかしあまりにナイーブ過ぎないだろうか? 中国がスリランカに対して将来とも優しい大国として存在し続けるとは思えない。

 今回滞在中、一般市民の誰彼に「中国や中国人についてどう思うか?」と問うてみた。「経済支援は有難いが、労働者を自国から連れて来るので雇用の創出にはなっていない。ピーク時にはハンバントタ地域で1500人もの中国人が働いていた」「態度が横柄で荒っぽいからなじめない」というネガティブなコメントも聞いた。ともあれ中国への依存度を高めたスリランカが、主権を侵害されかねないような見返りを求められた場合、敢然として主張を貫けるだろうか? 

 インドも近年、中国に刺激された形でスリランカへの関与を高めてはいる。インドから南アジア地域協力連合(SARC)諸国への直接投資の内、スリランカが1/2を占める。インドの対スリランカ貿易量は、中国の対スリランカの2倍超である事は注目に値する。深海港ハンバントタが開港したことで、パキスタンのグワダル、バングラデシュのチッタゴン、ミャンマーのシットウェを真珠に見立てると、それら各港湾建設を支援する中国の外洋軍事戦略によって、首飾りの様なインド包囲網が形成されたように見える。そして喉元に輝く真珠がシーレーンの要衝にあるハンバントタなのだ。同港は輸送する原油をミャンマーに振り向けるのに適した中継港となる。即ち先の大戦時の“援蒋ルート”ではないが、“ミャンマールート”を開く計画がある。中東から原油を運ぶとき、米国の強い影響下にあるマラッカ海峡を通ることが中国の不安の一つなのだ。

 中国はインドの鼻先で派手に大型投資をしながら、目立ちたくないらしく「ハンバントタは商業港に過ぎない」との言を繰り返すが、海軍大増強を図りつつある中で、大方の西側専門家筋は、早かれ遅かれ自国の空母や艦船を配備するだろうと見ている。その時になってスリランカが抵抗してもどうにもなるまい。そうであれば今はスリランカが夢想だにしないとしても、中国海軍の将来的橋頭堡が出現したことになり、インド洋のパワーバランスが崩れる恐れが大であり、その影響は日本にも及ぶ。日本にとって今後インドとの絆の強化が安全保障の観点から重要度を増す所以である。

4.ハンバントタに“南部経済開発特区”建設を急げ!

正面右手に見える港湾施設建設エリア 「剛腕で知られるラジャパクサ大統領は内戦末期、中国から武器援助のみかインフラ整備資金援助を受け入れ、トップダウンで空港と港湾建設プロジェクトに着手し、海のシルクロード中継の要とする政策を示した。内戦収束後は、貿易、外国からの直接投資、観光が軌道に乗り、'12,'13年のGDP成長率は,7%台を維持している」とは言うもののオープン2年目の国際空港は、外国から乗り入れる便数も少なく、閑古鳥が鳴いている。港湾にしても然りで、完成した暁にはタンカーや貨物船の寄港が急増するというものではあるまい。しかし作った上は遠くない将来にペイラインに乗せなければならない。そこで利用客を増やすため次の3つを提案したい。(1)大統領の陣頭指揮で「ハンバントタ開発特区」を造成し、製造業を主とした内外の企業、特に外国からの直接投資誘致に本腰を入れる。(2)外国企業へのインセンティブとして特別優遇税制を整える。(3)新国際空港を利用した南部海岸に観光ルート(ハンバントタを起点にゴール経由コロンボへ上る)を開発する。コロンボからゴ—ルなど南へ向かう客をハンバントタ方面へ導き新国際空港経由で帰国させる。これだけでも地域が活性化する呼び水になる筈である。

 日本企業の直接投資を促進するためには、代表的な成功例を7件ほど取り上げ、成功のポイントを簡潔に纏めて提示すること。そしてPotential Investersに対してアピールする手法としては、在京スリランカ大使館と日本の公的機関(東京商工会議所、横浜企業支援財団など)が「企業進出セミナー」を共催することである。スリランカからの日本向け情報発信は他国にして比して概ね少ない。実効を上げるには、何らかの形で組織的に企画、実行、フォローアップを行なう行動力を持たなければ、他国に後れをとることになろう。典型的成功例としてFDK Lanka(富士電機化学)を挙げたい。業態は、磁気ヘッド等電子部品の組立で全部品を日本の親会社からノックダウンで輸入(保税)し、組立した製品を全量日本へship backする方式だ。そこではスリランカ人女子作業員の手先の器用さ、正確さ、持久力、加えて人件費格差(マレーシアの2/5、ベトナムよりやや低い)が生かされ、堅実経営で評価が高い。新国際空港も輸送コストダウンに貢献しよう。またとかくこれまで誤解されていたスリランカの高い安全性を強調したい。

 スリランカを遅ればせながら豊かな工業国にするには何が必要かを考えると、やはり製造業を誘致すること。工場誘致→製品輸出→雇用創出→内需拡大→拡大再生産、というアセアン先発途上諸国の経済発展の図式を追随する路線に乗せることであろう。国際空港と港の後背地に工場群が出来れば、企業集落が形成されていき、商業施設も追随する。そのために出来る事は可能な限り早急に着手しなければならない。揺るぎない政権基盤に君臨するラジャパクサ大統領が確乎たる決意で号令すれば、前途は明るいものになると思う。

 (了)

 

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